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秋田地方裁判所 昭和25年(ヨ)71号 判決

申請人 内山雅夫 外九十二名

被申請人 日本通運株式会社

一、主  文

本件仮処分の申請はいずれもこれを却下する。

訴訟費用は申請人等の負担とする。

二、申請の趣旨

被申請人が昭和二十五年七月八日、九日、十日申請人等に対して為した解雇無効の本案判決が確定する迄

一、被申請人が昭和二十五年七月八日、九日、十日に亘つて申請人等に対してなした解雇の意思表示は無効である。

二、被申請人は労働協約第十二条を忠実に守らねばならぬ。

三、訴訟費用は被申請人の負担とする。

との判決を求める。

三、事  実

一、被申請人日本通運株式会社(以下単に会社と称す。)は陸上小運送を業とし正式に登記された会社で早川慎一は会社の利益を代表する社長である。申請人等は被申請人の営業所たる秋田支店管内に勤務する従業員であつて昭和二十五年二月二十三日中央労働委員会が労働組合第三条及第五条の規定に適合する労働組合であると証明した全日通労働組合(疏甲第二号証)の新潟地区秋田支部秋田分会の組合員でもある、現在に於ける勤務地、職場、職名、職種、地位及び組合に於ける地位は別紙目録第二の通りである。

二、被申請人会社と訴外全日通労働組合間には昭和二十五年四月十七日組合が要求した「四月以降賃金を一人平均一二二五〇円にせよ、労働協約の改正、結婚資金の支給」(疏甲第三号証)等の項目をめぐつて団体交渉が行われたが双方の意見一致を見ず同年五月十三日組合側が中央労働委員会に提訴し同委員会は同月二十三日正式に書類を受理し現在もなお審議続行中であるが組合は同年六月十三日に争議権を獲得しなおも平和裡に交渉を進めていたところ六月分給料を全従業員に対して正当な理由もなく労働基準法及び会社と組合間に正式に「労働賃金は一切の支払いに優先して支払いする」との協定を無視して賃金支払日の六月二十四日に至るも故意に支払遅延を策し、同年七月三日、四日の両日生活に困窮した組合員が一人平均家族持五〇〇〇円、単身者三〇〇〇圓の前借りを要請して団体交渉を行つたのに対しても一片の誠意さえも示さずこれを拒否するなど作意的にストライキを挑発し、一方に於いては七月五日頃より組合員に対して、脱退を精力的に勧告するなど積極的な組合分裂策動を開始した組合はこのような悪ラツな会社の陰謀に対して断乎ストライキを以て闘うことを決意し上級機関たる地区及び支部の七月六日の「スト指令」に基き同月八日午前八時よりストライキに突入することを指令した、申請人等はその指令に基き同日同時より整然とストライキに突入した。

三、被申請人会社は直ちに労働協約第十二条の協定を破つて市内中央貨物株式会社等からトラツクを雇いスト破りを行つた(疏甲第五号証)また交換手その他多数の臨時人夫を使用してスト破りを行つた、更に同日午後三時頃組合役員十四名中病欠者一名、脱落者一名を除く十二名と青年部長及婦人部長を本人に通知することなく一方的に解職処分に附したと称し東北肥料作業場の従業員浅野智三郎外三十三名をも本人に通知することなく解職処分に附したと現場に無署名で氏名を貼り出し、翌九日十時半頃同様手段で車輛作業場平山三郎外六十五名、秋田港作業場藤田与一外二十七名、一日市駅作業場畠山善雄外十七名、東北肥料作業場佐藤一二外十九名、更に同月十日秋田港作業場二名と総合計百八十四名に対して「解職処分に附した」との無署名の怪文書を貼り出した(疏甲第六号証)。

四、前記解職処分の発表なるものはいづれも申請人等がストに突入直後即ち七月八日午前十時以降に「ストに集加せず業務につけ」との趣旨の業務命令と称する無署名の怪文書を申立人等不在の建物などに貼り出したもので申立人等には別段通告されることなく行われたもので申立人等の何等関知しないものであつた。被申請人会社はその直後にストライキに突入した全員に対して前記解職処分発表なるものを行つたもので職場の闘争態勢の不充分その他のためにストライキに突入しなかつた者には一名も発しなかつた。勿論労働協約(疏甲第四号証)第六条に基く協議も行われなかつたし会社と組合間に昭和二十三年三月一日から有効に存続している就業規則第十二章「懲戒処分は懲戒委員会の議を経て行い本章以外の方法では行われない」との規定(疏甲第七号証)に基く協議もなされず行われたので組合もまた何ら関知しなかつたものである。

五、以上の経過に明らかな如く被申請人が申請人等に対してなした解職処分と称する発表は労働協約、就業規則による正当なる手続を踏んでいないばかりか業務命令と称する貼り出しと共に申請人等及び組合の全く関知しない一方的なものであるから何等効力を有しないことは言うまでもないが若し仮りに就業規則、労働協約による手続が正当にとられていたとしても前記述の如く悪質な組合の分裂、弾圧を狙い組合幹部全員を狙いスト突入者だけを全員狙い組合脱退の勧告を職制を通じて強制したものであるから労働組合法第七条、労働関係調整法第四十条の違反であつて全く無効であり申請人等は何等意に介するに足らないものであるのみならず、

六、被申請人会社は七月十一日午前六時二十五分から約三十分間同十時二十分から約一時間半に亘つて秋田市警察署と共謀して自らが解職処分に附したと称する申請人等が組合の前記諸要求獲得のためと会社側の不当労働行為反対、解職処分反対という労働者としての正当なる主張に基き更に合法的に獲得した争議権の行使を「業務妨害」と称して武装警官約四十名を動員し組合役員を中心として活動的組合行動隊員三十四名に逮捕状を発せしめて打つ蹴る撲るの暴行を働き支部婦人部長奥田トミヱさんの左眼に重傷を負わせた外十数名をそれぞれ負傷せしめた上支部執行委員長福井五郎外九名を逮捕し組合弾圧を行い七月十三日正午には従来から会社と組合間に協定されて組合が使用している事務所の使用中止を申入れ(疏甲第八号証)るなど盲目的に狂暴なフアツシズム的不当弾圧を事実として行いつつある(疏甲第九号証)。またこのように無暴なる会社であるからあくまで反省する所なく近く会社建物及組合事務所の立入禁止、給料不払などの非常手段を採つて来る危険が充分予想される状態である。

七、このような訳で申請人等は被申請人に対して前記解職無効の本訴を提起しようとしてその準備中であるがその勝訴判決の確定するまで右の解雇が有効であるのと同様の状態が存続し且つ官憲による不法弾圧が続けられると申請人等はその職場で業務を行うことができなくなつて簡単に生活手段を絶たれて大きい脅威を受けるばかりでなく申請人等の利益を代表する組合の行動も囘復し得ない変更を受けることになるし仮りに右業務が許されても労働条件に於いて他の従業員と差別されるとやはり右のような結果は避けられないからこのような著しい損害を避けるために民事訴訟法第七五五条並に第七六〇条により前記の通り仮処分としての判決を求める次第である。

被申請人会社は解職理由として、

非合法な争議行為を主導したこと及非合法な争議行為をなしたことを挙げているが申請人等の争議行為は疏甲第二号ノ一、二同第三号証によつて明らかな如く合法的に行われたものであるが更に、会社に要求提出する直前即ち昭和二十五年四月八日九月十日の第八囘新潟地区大会に於ては「実力行使」で闘うことが再確認されて居りその闘う組織態型として「支部が実際闘争の主導権を握りこの面では地区より優位する」ことが確認されている。

同年四月二十二日、二十三日の第六囘支部大会に於ては「一人一人が一齊にその総てをなげうつて身をもつて断乎闘う」ことが満場一致確認されている。

更に同年四月二十六日分会大会に於ても支部の闘争方針が満場一致確認された、そのために各班の自主性が大幅に認められた、その後職場闘争の態勢は急速に強化整備されていた。

そこえ会社の不誠意に対して断乎闘う決意を固めた地区、支部のスト指令が発せられ分会は各班毎に分会執行委員を会の下に組合の直接無記名により二百七十九対百六十四、保留一棄権二六をもつて地区、支部、分会のスト指令を確認し職場の力と各人の力に応じてストライキを決行したものである(疏甲第十一号乃至第十四号証)。

と述べた。

被申請人の抗弁に対し、

一、法外組合であるから争議権なしとする議論について

(一)  申請人等の所属する全日通労働組合が改悪労働法による条件を満たした組合(以下法内組合と便宜上呼ぶことにする。)であることは既述した通りである。

(二)  仮りに調停申請をした時、法内組合なりや否やの資格を審査するとしてもこれと調停の受理審議追行とは別問題であつて労働委員会が、これが審議を進行せしめないのは委員会の職務怠慢乃至違法行為と言わねばならない即ち労調法第十八条では労働委員会で調停を為すには労働組合からの申請等でなくて「関係当事者」よりと明記しあつて法律上は資格を持つものと持たないものと差別をしない趣旨であることは明瞭である実体を考えて見ても未組織のものと否とを差別する合理的な理由は何もなく又実際の運営上もこの解釈によつてやつているのだから組合をつくつている以上資格を云々する迄もなく調停を受けられるのは当然でさもないと公益事業の場合資格がなければ調停の申請も出来なくなり永久にストライキという憲法の保障する団体交渉権を奪うことになる。斯かることは現行法上絶対に許せないことで斯かる解釈こそ違憲なのである(人民の法律第三号十頁―十一頁)。

(三)  以上のような理由で具体的には本件全日通労組は既に適法な調停申請を為し受理され委員の顏触もきまつているのでその期日より法定の冷却期間を経過した本件ストライキ当時は適法に争議権を持つていたことは各疏号証で証明した通りである。だから中央労働委員会が調停の進行について組合執行部等に資格審査に関し申入れをし(此の申入には期限がない)組合が大会の運営上その申入に合致した行為に出で得なかつたとしても未だ法外組合と決定したこと乃至は法内組合として認めたことをその後取消もしていない事実から見て法外組合であるから争議権なしという議論は当らない、況んや法外組合でも調停申請を為しそれより三十日を経過した場合には組合は争議行為を為し得るに於いてをや。

二、本件争議は中央と別個の争議であるか。

(一)  先ず本件が中央と別個の争議であるかを検討するに成程新潟地区では文言上中央の調停を求めた項目とは異なつた項目を掲げてはいるがその第一項目は今次賃金要求の一環であつて全然異なつた要求ではなく又第四項目も労働協約改訂要求に含まれるものであつて全然別個のものとは言い難く従つて労調法の関係上も更にその件に関し新に調停申請をなし三十日を経過しなくては争議行為に入れないものではないと言わねばならない。

(二)  従つて本件争議は中央の調停申請を為した要求項目に基く争議で此の点に関し何等新潟地区がストライキ指令を発するに違法はない。

(三)  元来争議の箇数については従来の主張の不一致に関し争議権が関係当事者にある場合にその争議の同一性を全く失わしめる様な要求の追加が行われた場合にこれを別個の争議と観念されているので然らずして争議の同一性を害さない程度の派生的従属的な要求の若干の修正の如き殊に文言上の変更の如きは新しい要求事項の追加とは言い難く殊に今日の如く経済事情の激動期には到底前記本件の如き要求項目の文言の変更、細目の具体的表示による変更の如きは争議の箇数を増加せしめたものとは言い難く従て争議開始期に変更を来すものではないので被申請人のこの点の主張は理由ないものと考える(有泉享労働争議の法理九五頁)ましてやこれを目して「判例に所謂度はずれた非合法争議」と思考するが如き誤解も甚だしいと思う。

三、本件争議は所謂山猫争議であるか。

(一)  労働組合の本質は労働者の親睦団体でもなければ福利厚生を目的とする共済組織でもなく只管に使用者に対抗してこれと闘争する組織体である(だから労資協調等は組合の本質を知らない御用者の考え方であるが)その生命とするところは団結の強固なこと、一部の者が団体の意思と無関係に或は意思に反いて行動しないこと、民主的に内部が統制され規律が維持されることであると言わなければならない。

(二)  だから一部組合員が勝手な争議行為をすることが組合規律違反だという点で組合内部の問題乃至は労働階級全体の問題となり論議されることは一応当然のことである。しかしながらこの問題を使用者が勝手に山猫争議として極めて悪質のものの如くにきめつけ(昭和二十三年全逓賜暇戦術に対する政府警告)放言するのは勝手であるがこの問題はむしろ労働階級の階級的良心に従つて批判されるべきもので使用者乃至資本家が自己の側に立つて関与すべきものではない、されば自己の利潤と搾取制度の維持の為に争議そのものを山猫争議と称しケチをつけるか又はその口実の下に争議を弾圧しようとするが如きことこそ、極めて悪質の所為と云わなくてはならない。

(三)  此の問題はむしろ組合員と組合内の規範である組合規約の内部的統制関係、別言すれば自主法違反の争議として採り上げるなら格別(特に組合幹部の御用化反動化滔々たる現下の実情に対する組合員の尖鋭な批判が最近多いのに鑑みて)争議の相手方又は第三者に対する外部的な関係に於いて云々されるべきものではない、だから山猫争議と称されるものでも本質的には他の一般の争議と区別されるべき合理的な理由はないのである(末弘厳太郎監修労働法一三四頁以下沼田稲次郎日本労働法論中巻二六〇頁)。以下争議一般の問題として反社会的なりや権利濫用なりや否やとしての批判は別であるが一部公益事業について特にこの点を云々し直ちに山猫争議が違法であるとするものがあるがこれは全く成文法上の根拠も合理的理論でもない(被申請人の引用する孫田秀春氏の著書、日本評論末弘博士論文も同趣旨、東京大学労働法研究会労働組合法八〇頁)。

(四)  仮りに百歩を譲り一般の呼称に従つて山猫争議に「規約限界」を認めてもこれを以て直ちに違法なりとの結論は出てこない。被申請人の引用した文献に於いても経営者側の労働係弁護士孫田秀春氏すらその恩師カスケル教授の説を紹介し同教授が「この行為(所謂山猫争議)は不当な行為ではあるが不法なる行為ではない」と解せられると云つてをり孫田氏の意見としては権利濫用の法律効果の点について説明してをられるが同氏の指摘する山猫争議も矢張り一部組合員の規約違反の争議行為だけを問題にして支部等組織体のことは問題としていない。

(五)  日米労働問題用語集によれば元来山猫争議とは本場のアメリカでも「工場に於ける労働者の一部が支部組合の許可も受けず又民主的投票にもよらずしてストライキや労働停止を行わんとするときアメリカではワイルドキヤットと呼ばれる、もし全国組合の規約中に支部がストライキをするには中央の承認がいる旨の規定があり、しかも支部が中央の承認を得ずにストライキに入る場合にはそのストライキもワイルドキヤットストライキである、……ワイルドキヤットストライキは組合精神と組合規律の欠除を示す」と定説されている。

(六)  斯くの如く山猫争議とは一部組合員の自由法違反即ち組合規律違反の争議である(孫田博士前掲書一四四頁神山欣治労働刑法一一二頁東大前掲書七九頁吾妻光俊労働法一九二頁)が我が国の一部の人にはそれ自身労働組合としての実体を具えている組合支部が単一組合の指令を無視して争議をした場合をもこれに混同して考え、否むしろ山猫争議の本質を故意に曲解して此の場合の争議も違法視して民事刑事の責任を問わんとしているがこの後の場合は単に自主法たる規約違反と云う内部的法律問題となるに過ぎない。この為に争議権の保障を奪われたり違法視せられたりするものではない(吾妻前掲書一九一頁東大前掲書七九―八〇頁)。

(七)  山猫争議とは叙上の如く組合員の一部が規約に背いて争議を行う場合にのみ指すものでその呼称を用いるとしても正確にはこの場合だけのことであるのが通説である。日米用語辞典ではこの点明確である(東大、孫田、神山、吾妻前掲書何れも然り)。そして此の場合のみ山猫争議として問題にすれば問題になり違法性も云々されるのである、そして支部組合の指令違反の争議は何故之と截然と区別されるのか、それは俗に云う争議行為の正当性を主体の側からみて然ることが通説の様である、即ち争議行為による圧力を使用者に加えてみても使用者が之と交渉する余地がない為団体交渉の責任主体と争議行為の責任主体と異なり為に労資対等の原則の上に立ち交渉できず労働法の精神にももとるというのである(吾妻前掲書一九二頁神山前掲書一一二頁―一一三頁)。

(八)  ひるがえつて本件について見るに全日通労組は争議権を既に持つてをりその後開始に関し新潟地区に中央と指令権につきソゴがあつたとしても新潟地区秋田支部秋田分会はそれ自体労働組合としての実体を具えてをり従来とも使用者と対等の立場で団体交渉もしていた組合であるので申請人等の所属する組合たる全日通新潟地区秋田支部秋田分会の今囘の争議行為は中央との関係で所謂スト権の移譲前であつたとしてもこれは全日通の地区、支部、分会、班の何れの規約にもスト開始につき上部機関の承認を得なければならないとの規定のない以上(疏甲第十一号証参照)アメリカ式に見ても所謂山猫争議とは云い難く且つ我が国の通説からみても山猫争議ではなく単に自主法違反の即ち規約違反の争議に過ぎないものである。そしてそれは使用者に対する関係乃至第三者に対する関係に於ても当然法律上正当の争議であり争議権を保障され民、刑何れの責任をも問われない正当な争議といわなければならない。

(九)  最後にスト開始につき無記名投票が行われなかつたと被申請人は主張するが申請人は既に疏甲第十二号証でも明らかな通り争議開始の件につき地区より支部、支部より分会、分会より班に優位性が認められ明らかにストに入る班に於てその可否について無記名投票を為せば足りる旨確認されたのである。労組法の規定も組合の何処でこれを行わねばならぬと規定していないのであるから実際にストに入る組織に於てその開始の可否を票決し可とするところから開始すれば法の要件を満たし毫も不法はないのである。本件についても既に班毎に無記名投票できめてをり且つ一部の班では穩健に、可決しても決行しなかつた所もある位だから社会的にみても違法はない穏やかなものである。

(十)  被申請人の此の点に関する主張は山猫争議の観念に混同を来たしたもので全く取るに足りぬものであり又その一根拠として引用した大分地方裁判所の判例も組合支部の指令乃至規約違反の争議ではない一部組合員の行つた争議行為に関するもので本件の場合とは全く異なつたケースのものである。

四、申請人等所属組合と被申請人会社との間には労働協約は廃棄されて現存しないから協約違反等はないと言う議論について、

(一)  被申請人と組合との間に昭和二十四年七月十一日迄は有効な協約は存続したが疏乙第十一号証の一、二、三の申入書の通り「前記日時を以て終了せしめ更にこれを更新する意思がない」旨通告したと称するが右申入書の何れを検討しても従来の協約の現存することを前提として状勢が変り関係当局の勧告もあるので早急に改訂したいと言う丈で所謂廃棄の申入でも通告でもないから引つづき協約は有効に存続するものと申請人等は考える。そして右疏乙号証を利益に援用する(疏甲第二十号証参照)日通労働の如き新聞記事は単に記事であり大会促進のために紛飾されたものであり中央部の性格を表わした丈で法的拘束力もなく又組合員全員の意向でもない。

(二)  元来改悪労働法第十五条第二項は資本家側、主として日経連が反動吉田内閣に懇請して一方的に無協約状態を現出せしめ自己の勝手に産業の公共性を無視蹂りんしてその従業員を馘首せん意図の下に真に文字通り改悪した条文であつて本条の解釈は正に斯るが為に厳格に為さるべきものである、されば本件会社の申入も単に改訂乃至改悪の申入であつて決して相手方の主張の如き廃棄であつて無協約状態にあるものとは右条文の解釈上も言えない(無協約状態を招来しようと言うような申入は改訂の申入であつても無効であるとの判例あり)。

(三)  被申請人は仮りに契約は有効としても協約中には申請人主張のような条文がないとしそれは協約第六条中の「……解職の一般方針に関しては……」とある文言を根拠としている様であるがこれは右条文中何処にも一般云々言うが中央のものとも地区、支部、分会等に関するものとも書かれていない処からみて一般良識に従つて判断すべき処で今囘の秋田分会の解職の如き人員の点、動機、地域からみて当然この条文の解釈上同条文に該当するもので論旨は理由ないと考える。

(四)  相手方は申請人の本件解雇が就業規則違反なりとの主張を反駁しているのでこの点について、被申請人は右解雇は就業規則第四四条第一項五号の「その他重大なる事由があると認めたとき」であるので懲戒解雇でないから懲戒委員会の諮問の要なしと強弁するが本件解職は争議を行つた為乃至これを指令した為の懲戒解職であることは疏甲第十号証第十六号証中の文言、第二十一号証アッピール中の文言の反面解釈で事実上明らかなことであつて争の余地はない、しかのみならず会社は右条文を恣意によつて運用し会社に一方的な解釈を勝手にさせることは労資対等の原則にももとるところであり又判例もたとえ協約就業規則に基き組合に協議乃至同意を求めた上で馘首した場合でもその不当適用の場合即ち客観的に妥当性を欠く場合は右解雇は無効であるとしている位だから(東京地裁民事十部昭和二十四年(ヨ)第三五三五号事件)懲戒解職につき協約上就業規則上の手続を欠いたために強いて別の理由によるものである等と客観的に妥当を欠いた条文の適用は許さるべきものでない。

五、本件争議に関する諸種の事情の反駁について、

右はいづれも会社の馘首の惨酷を例示したに過ぎぬものでこの反論に対する弁明は大人気ない。

六、スキヤップ禁止約款違反の事実について、

(一)  右は明白なる違反で問題ない処であるが補足的に一言するならば被申請人の主張では労働法の根本精神である労資対等の原則をここでもまた忘れたものであるといわねばならぬのみか現行法上職業安定所以外の労務請負の業を禁止する趣旨はこれをくぐり脱法的に個々の人を雇入れることを容認したものではなく当然これをも脱法行為として取締るべきものでこれを為さぬは取締当局の職務怠慢である。殊に争議中の会社が組合に対抗する為にスキヤップを勝手に雇入れることは労資対等の原則にもこの組合の既得権侵害になることは約款の性質上当然である、被申請人の反対理由は理由がない。

(二)  公益事業であるから右約款自体が強行法違反として無効であるのが通説とは思い上りと言うべきである公益事業について争議権に制限をした(このこと自体違憲にあらざるやと申請人は考えるが)のは只単に公共に影響するところ大であるから抜打的な争議は困るという政策的理由以外ではない法の趣旨としても所謂冷却期間を経過すれば当然公益事業で公共に大なる影響ありとも争議を法認している以上その争議を必死に闘うに差別なく公益事業にスキヤップを入れることを認めるとすれば(被申請人主張の如く)公益事業では争議乃至ストは全然禁止されたと同じこととなりこれこそ明白な憲法違反となることである。却つて被申請人の如く解するならば右禁止約款こそ組合の既得権と言うべき根拠となり主張に一貫せぬところが生じて来るに於てをや公益事業の冷却期間による争議の一時的制限は全く一般公衆に、争議に対する用意をなさしめる期間の趣旨しかないものであつて之を曲解するときは驚くべき野蛮国家社会を招来すること故大に慎しむべきである。

七、補充

(一)  解職者に対する引札、思想的処置等云々するが此の点は以上よりして何等理由なきものである。

(二)  弾圧の事実は申請人はむしろ歴史の永い目を裁判所が持つていると信じその良識に訴えるが斯る警察等一連の連中の行為が当然の国家行為とするならば日本には過去にも現在にも将来にも弾圧という用語は必要がなくなるだろうとさえ申請人等は考える位明白なことだ。

八、以上の如き次第で本件争議は全く正当のものであり(組合内部の関係は別として法律効果的に見て)純然たる経済要求に基くもので政治スト乃至同情ストの如きものでなく自らの生存権、基本的人権を守るために止むを得ずとつた憲法二八条に保障された権利の行使であるにも拘らず会社は自らの利潤の搾取の為に都合悪いため集団解雇という不当労働行為を敢てしたもので労働組合法上当然無効のものであり労調法の関係から言つて会社は現在迄に何等調停の申請をして居らず従つて従業員の大量的首切りをなし正常なる業務の運営を阻害する様な争議行為即ちロックアウトにも等しい手段に出ることは当然違法と言わなければならない。ましてや協約違反就業規則を直接に無視した本件争議による集団解雇は当然無効と思料するので申請人等は速に申請の趣旨通りの裁判を求めるものであると附陳した。(疏明省略)

被申請人代理人は主文第一項表示の如き判決を求め答弁として次の通り述べた。

一、申請人等が本件請求原因事実として主張する処は甚だ雑然、且つ多岐で適当の釈明を求めて其の整理を得なければ答え得ないものもあるが本件は公益事業の争議で迅速な御審理を仰ぐ必要があるので申請人等の主張の骨子と推定される事実を便宜上当方に於て摘出し以て御答をする。

二、申請人等が請求原因事実として主張する事実を摘示するに左の通りである。

(一)  申請人等の属する全日通労働組合は法内組合である処四月十七日の組合決議に基き(1)賃金ベースの改訂(2)労働協約の締結(3)結婚資金の支給(4)寒冷地手当支給の四要求を掲げ被申請人日本通運株式会社に接渉し五月十三日労働関係調整法第十八条第一項二号に基き中労委に調停を申立たから同法第三十七条に基き三十日を経過した六月十三日争議権を得たものである、従つて其の下部組織である新潟地区及更に其の下部組織である申請人等の属する秋田分会は法律上争議権を有するから今般の争議は合法争議である。

それ故争議をなした事を以て解雇する事は違法であると謂うのが第一点である。

(二)  第二点は申請人等の属する全日通労働組合と被申請人会社との間には労働協約がありその第六条には「人事は組合と協議する事」とあり該協約に基き締結された昭和二十三年七月十二日締結された就業規則第十二章には「懲戒処分は懲戒委員会の議を経て行う。」と規定するが故に昭和二十五年七月八日より十日迄の間に行われた申請人等に対する懲戒解職は違法であると謂うのである。

(三)  第三点は被申請人の解雇は職場に対する掲示のみを以てなされたもの故該意志表示は申請人等に到達していないから無効であると謂うに在る。

右三点が解雇無効の理由の骨子たる争点と受取られる、そして次の三点を以て救済内容第二点の「会社は組合の運営支配に関し直接或は間接を問わず一切干渉してはならない。」との原因事実としている。

(一)  前記団体協約第十二条には「争議中のスキヤップ禁止」が協定されて居るのに争議破りの為め外部から臨時夫を傭入れたことは協約違反であつて組合の支配に対する干渉であると謂うのが第一点である。

(二)  会社は争議を挑発しながら一方「ストに参加せず業務につけ」との業務命令等により組合員を威圧し遂に争議参加者のみを馘首したことは組合運営への干渉である。」と謂うのが第二点と思料する。

(三)  第三点は会社は秋田市署と共謀し不当の告訴をして組合執行部を逮捕せしめて組合を断圧したと謂うのが第三点である。

右摘出した申請人等の論点に付て項を改めて反駁答弁する。

争点に対する答弁及抗弁

第一申請の趣旨(1)の原因事実に対する答弁

争点第一点 本件の組合が法内組合であるか否か、本件争議が合法であるか否か。

一、申請人等の属する全日通労働組合が昭和二十五年二月十日一応法内組合と認定され甲第二号証通り同月二十三日中央労働委員会から審査合格の証明書を交付されたことは争わない。

然しながら右証明書に拘らず該組合は今日現在は法外組合である。

(一)  昭和二十五年二月十日中央労働委員会は全日通労働組合の審査決定に当り無条件合格を決定したのでなく条件附を以て合格せしめたことは左の経緯によつて明確である(乙第二号証)

(イ)  即ち中労委は組合に対し二月十日附を以て全日通労働組合の規約に付て左記条章を速に勧告に従つて改訂するや否やを問合せた。

1、非組合員たるべきものに付て将来中労委が指示する基準に従つて処置是正すること。

2、(就業時間中の組合活動に付て該時間に該当する賃金の支払を受けないこと)即ち使用者から経済援助を受ける規定を除くこと。

3、左記各項を指示の通り訂正すること。

組合規約第三十七条及第三十九条を「一般組合員の直接無記名投票」と訂正する。

第四十四条を「全国大会に於て直接無記名投票により」と訂正すること、第五十四条「代議員を中央代議員」と訂正すること、第六十三条も亦「直接無記名投票」と改めること。

(ロ)  右に対し組合は同日附を以て「組合は昭和二十四年九月二十五日開催の第四囘定期大会に於て法内組合たるべしと決議したが右勧告事項は重大に付速に組合の正規の手続を践み組合の機関に諮つて善処する」旨を囘答したことによつて審査をパスしたのであつた。

(ハ)  右条件附合格の証明書が昭和二十五年二月二十三日附証明書である。

(二)  然るに組合は次期大会である昭和二十五年五月二十三日の第五囘(別府)大会に於て組合規約第四十四条の改正に付論議沸騰し遂に前記中労委の勧告指示に拘らず旧規約を改めず前掲囘答と反し条件を成就しなかつたのである。

(三)  其の結果昭和二十五年五月十三日中労委に対し組合から申請人等主張の様な調停申立をしたのに対し同委員会は同月二十三日書類を一応受附けるが組合が前掲昭和二十五年二月十日附の勧告指示の条件を成就しない限り法内組合たることを得ないが故に其の追完迄は法外組合として実質審議に入ることを得ない旨を桂会長代理から宣告されたのである。

(四)  右事実は組合中央執行部に於て本年六月二十日組合機関紙である「日通労働」紙上に掲載し広く組合員全員に告げ以て「全日通労働組合は速に第五囘大会を再開するのでなければ組合は法外組合として争議権がない」ことを警告した事によつて明瞭である。(証拠第三号「日通労働紙」)

(五)  それならば秋田分会の今次同盟罷業は此の点に於て非合法である事が明瞭である。

二、次に法内組合、法外組合の論議は格別として仮りに法内組合であるとしても秋田支部の行いつつある今次ストライキは日通労働組合本部の指令に基く争議ではなく下部組織である新潟地区の指令に基くもので該地区争議の一環に過ぎない処該地区の争議は左の諸点で非合法であるが故に秋田分会の争議も亦非合法なものである。

(一)  前記の通り全日通労組本部としては規約第四十四条の関係上法外組合として調停申立権がなく従つて争議権も有しないとの考慮から無期休会中の第五囘大会の再開を先決として居る時組合の急進分子が幹部を占める新潟地区は昭和二十五年七月六日(組合本部とは無関係に)地区独自の立場に於て日本通運株式会社新潟支社長宛に左記要求を提出し且つ七月十日迄に書面による囘答を求めて来たのである(乙第四号証)

(1)  就業時間中の賃金差引の通告即時撤囘(註前掲中労委の勧告指示を無視し組合を法外組合たらしめる要求)

(2)  四月賃金一万二千円即時支給

(3)  雪害寒冷地手当組合要求の即時支給

(4)  臨時作業員全員の即時入籍

処で右要求条項中(1)及(4)は組合中央本部からも未だ曾て提出された事のない要求で従つて昭和二十五年五月十三日中労委に調停を申立た調停の趣旨にも掲記ない全く新たなる要求条項である従つて(仮令新潟地区が法内組合である場合でも)右(1)及(4)の要求条項に付ては労調法第十八条第一項第二号に基き改めて新潟地区として調停を申立て三十日の期間を経過しなければ所謂スト権がないこと明瞭である。

更に(2)と(3)に付ては中央本部が調停を申立た条項であるが此の件に付同盟罷業をなす事に付ては本部から指令もなく又所謂スト権の移譲もなかつたのである。(乙第五号証)

以上の観点から新潟地区の今次争議は本部とは無関係な地区独自の争議と認めらるるものである。

それ故新潟地区が地区として独自の同盟罷業等争議行為をなすには必ず労調法第十八条第一項第二号に基く調停の申請をなし同法第三十七条の三十日の冷却期間を経た後でなければならずそうでない争議行為は判例に所謂「度はずれた非合法争議」と極印を押されても致方ないのである。

然も新潟地区本部は元来会社に対し「要求に対する囘答期限は七月十日迄とし且つ書面を以て答えられたい」と申入れ乍ら囘答も待たず期限内である七月八日より同盟罷業を指令し斯くて秋田分会から無宣告ストに突入したものであつて労調法第二条の「争議発生の場合誠意を以て解決に当るよう努力しなければならない」との法規に反し信義誠実の法則を蹂躪したもので無法千万と謂う外ない(乙第七及八号証)

(二)  のみならず仮りに新潟地区に争議権ありとしても今般の同盟罷業は労働組合法第五条第二項第八号の規定に則る新潟地区並秋田支部規約及其の傘下分会規約に明定する「組合員の直接無記名投票による過半数の決定」を無視し新潟地区並秋田支部及其の傘下分会の各主脳部が適法な決定を終る事なくなした罷業指令に基くものであるから違法な争議である、そして申請人等は該ストは(会合も投票もしなかつたか又は反対決議が多数であることを知り従つて)違法な争議であることを熟知しつつ参加した者等である(乙第六及四号証)(右の証拠として第四号証「新潟地区の要求書写」第五号証「本部中央委員長の通牒」第六号証「新潟地区の組合規約」第七号証「スト決議なくストに入つた旨の上申書」第八号証「囘答期限内に起きた無警告争議の証明書」を以て非合法争議なることを証する)

三、右の通り全日通労働組合は法外組合であること、本件争議が「度はずれた非合法争議」であることは明瞭であり従つて申請人等の所為は労働組合法第七条に言う「労働組合の正常な行為」をなしたものとは言い難いのである。

殊に日本通運株式会社は法に謂う公益事業を行うものであるが故に申請人等の罷業は労調法第三十七条に違背する不法行為であり且つ申請人等は前述の通り組合本部の警告を無視し且つ自らの組合規約をすら蹂躪して故意に之を遂行したものであるから此の非合法の故を以て解職されても止むを得ないものと謂わねばならぬ、それ故論旨第一点は理由がない。

争点第二点 申請人等の属する全日通労組と被申請人会社の間には労働協約が現存するか否か、被申請人に於て協約違反があるか何うか。

一、申請人等主張の通り全日通労働組合と被申請人会社との間には昭和二十三年七月十二日労働協約が締結された事実はあるが該協約は昭和二十四年七月十一日を以て失効し現在は無協約である(此の事実は前記組合中央本部が中労委に対してなした調停申請に於て「協約の締結」を請求条項(2)として掲げる事でも既に明白である)

之を詳述するに左の通りである。

(一)  前記昭和二十三年七月十二日の協約は(別紙証第九号の通り)第十七条の定めにより有効期間は六ケ月である処自動延長約款によつて昭和二十四年一月十二日更に六ケ月延長され昭和二十四年七月十一日迄有効に存続する事となつた処会社は昭和二十四年五月二十七日及同年六月十一日と再度に亘つて「昭和二十四年七月十一日を以て終了せしめ更に之を更新する意志がない」旨を通告したので改正労調法第十五条第二項(並右協約第十二条第二項)により昭和二十四年七月十二日から協約は失効し無協約状態となつたのであるから申請人等の協約現存を前提とする論旨は全部理由がないものである(第十号証の一、二、三)

(二)  それのみか右失効した協約に於てさえ申請人等主張の様な約款は毫も存在しなかつた事は別紙証第九号で明瞭である。

右協約第六条の文書は「組合は会社の人事権を認めるが之に対し異議申立をする事が出来る……従業員の休職及解職の一般方針に関しては会社は組合機関に説明し組合の意向を充分聴取する」とあるに過ぎないもので申請人等組合員を解雇する等具体的な個々の解職に付て組合の同意を得ることを要するの定めは毫も存在しない従つて申請人等の主張は全く架空の論に過ぎない。

二、更に被申請人が昭和二十五年七月八日から十日迄の間に申請人等に対してなした本件解職は(解職後も余効後力を有する前記協約の条章の部分に則る)就業規則第四十四条第一項第五号「其の他重大な事由があると認めた時」は解職するとの条項に準拠したものであつて同条第一項第一号「懲戒により解職処分の決定を受けた時」の条文に則つたものでない。

(一)  申請人等主張の通り就業規則第十二章第百十五条乃至第百二十一条には懲戒に関する規則を定め殊に第百二十一条を以て「懲戒処分は懲戒委員会の諮問を経て行う」と規定することは争わないが解職は前記の通り就業規則第四十四条の定めに従つて行うもので(別紙証第十一号に明かな通り)

(1)  懲戒解職

(2)  依願解職

(3)  停職満了解職

(4)  経歴詐称による入社発見による解職

(5)  其の他重大な理由あることに基く解職

と分ちあつて懲戒解職は其の一部分に過ぎない。

(二)  本件解職は(5)右の解職であつて(1)の懲戒解職ではない従つて委員会の諮問を経ないのは当然である。

三、右反駁で明瞭な通り争点第二点の申請人等の立論は全く理由のない空論である。

(一)  然し其の論議によつても申請人等の平素が如何なるものであるかを告白している即ち

(1)  申請人等は其の行動の憲章である労働協約を読み違え甚しきは失効にさえ無関心であること。

(2)  其の就業の準則である就業規則を心得ずして業務に従つて居る程不熱心であること。

(二)  若しそれを熟知して居るとせばそれを無視した今囘の罷業は益々故意の非合法争議であることの証拠となるものである。

四、以上の次第故被申請人は争点第一点に詳述した通り今囘の罷業を非合法と断じ且つ之を知り乍ら法律を無視し且つ本争点に於て難ずる通り就業規則を犯した申請人等は「度はずれた非合法争議の遂行者」になるが故に「重大な事由あるもの」との規定に準じ解職したものであつて此の処断は決して労働組合法第七条労調法第四十条に背反するものではない。

争点第三点 解職告示が適法であるか否か。

一、被申請人が昭和二十五年七月八日から十日迄の間に発令した申請人等の解職通告は左の順序に従つて行われた。

(1)  発令と同時に申請人等に申渡す為庶務課長をして組合に赴かせ執行委員を通じ召集方を依頼したが応じないのみか時既にストに突入後である為め参加者である申請人等は被申請人の呼出に応ずる気配もなかつたのである。

(2)  仍而止むなく(別紙証第十二号の三の告知書の様式によつて)申請人等争議団員の集会する職場に夫々掲示によつて告知し

(3)  更に各発令日の翌日内容証明郵便を以て申請人等の自宅に向け通知の手続を採つた処前日既に掲示によつて熟知した申請人等は組合執行部の指令に従つて之を開封する事なく返戻し来つたのである。

(4)  仍而目下秋田地方裁判所執行吏の送達による方法で「解雇辞令及解職予告手当受領の催告」中である。

(一)  右の次第で告知の方法は欠くる処がないのみか本件救済申立書を以て解職の効力を争うている事実及前掲内容証明郵便返戻の事実に徴し前記(2)の解職の意思表示は十分申立人等に徹底して居るものである。

(二)  のみならず判例は本件の如き場合職場になす「解職の掲示」或は「拡声器による放送」を以て告知の手続は十分であるとなして居るのである(最高裁判所編「労働関係民事行政裁判資料」第七号参照)

二、従つて申請人等の第三の論旨も亦理由がない。

争点各点の補充

被申請人が今般の罷業参加者である百四十八名の在籍者である申請人及臨時雇員である三十四名の申請人等を解職したことの理由。

一、申請人等の主張する請求原因たる三点の主張に付ての反駁を兼ねる解職の理由は叙上の通りであるが被申請人がスト参加者全員を大量解職した事に付て魁新聞社説を初め社会的に論議があるに鑑み一言補足したい。

(一)  被申請人等中東北肥料構内作業に従事するものが本件ストに先行し七月四日硫安貨車積込作業中之を中止する不法を敢てし其の頃から進藤新潟地区委員長も来市し各職場に於て組合の要求貫徹に関し朝鮮問題を含め之に基き「アカハタ特報」と同旨の論旨を以て演説を進める等激烈に闘争意識をアジリ「スト」態勢を固めつつあるを目し新潟地区は一部急進分子に指導され現下の緊迫した国際情勢下に特定政党の術策に陥り組合運動の美名の下に「朝鮮問題を論議し反米運動的政治スト」に陥るなきに非らざるを憂えた結果(証第十二号の一の通り)七月六日業務命令を以て厳重非合法争議を戒ましめる処があつたに拘らず秋田分会執行部は組合規約所定の手続を践まず八日ストに突入を指令し申請人等は之に従つたので(証第十二号の二)七月八日附業務命令を以て申請人等に職場復帰を勧告したのに拘らず敢て之を肯じなかつたものである。

(二)  のみならず今次のストは之を敢行すれば非合法と認定せらるべきことは(証第三号)日通労働紙を以て六月二十日組合中央本部から予め組合員たる申請人等全員に告知し且つ新潟地区に於て盲動せざるよう暗に警告してあるのに之を無視して争議を行い被申請人が一日早朝「非常警告」と題し「非合法ストを解くことを勧告し職場復帰を肯じない時は解雇する」旨を掲示しても猶ストを続行し自動車班に属する申立人等の如きは同日早朝スクラムを組んで車庫から自動車を引出すことを妨害する等合法手段を逸脱するの挙に出でた程であつた(十三号証魁新聞)

二、事情右の通りであつて申立人等全員は故意に非合法争議を敢行する急進分子と認める外ない為止むなく全員解職を申渡したもので情状酌量の余地がないものである。

第二申請の趣旨(2)の原因事実に対する答弁

争点第一点 被申請人は労働協約第十二条「スキヤップ」禁止約款に違反したか否か

一、申請人等は被申請人は会社と申請人等の属する全日通労働組合間の協約第十二条の「スキヤップ禁止」条項に違反し不当に組合活動を妨害したものであると主張するが前述の通り会社と組合間には現在協約は存在しないが故に之を前提とする一切の論旨は理由がない。

(一)  のみならず申請人等の採用する(失効した)協約の第十二条の規定は「会社は組合の争議中に於ては一切の労務供給請負業者と労務供給契約を行わないこと」とあつて会社が労務供給請負業者によらず個々に社外の個人を臨時夫に雇入れる事に付ては之を禁じて居らない、処で本件争議に際して被申請人は請負業者に頼らないのは勿論職業安定所にも依らず個々に自由労働者を雇入れて居るのであるから(仮りに右約款に所謂余後効力ありとしても)何等不当労働行為とはならない。

(二)  更に右第十二条の約款は法律上「職業安定所以外に労務請負業を禁ずる」現行法制下では無意味であるのは勿論所謂「余後効力に基く組合の既得権」ともならない事は組合中央幹部の熟知する処であるが故に昭和二十四年十二月二十六日組合本部執行部は会社に対し団体協約再締結を申入れるに当り添附した組合起草案に「個々にも社外から雇入れてはならない」と改めたいと記載した程であつて該条文は今日死文であること明白である。

それのみか公益事業に付ては「スキヤップ禁止約款」は強行法違反として無効であることが定説で新潟鉄道局は此の説に従つて被申請人に「臨時夫を雇入れても業務を遂行せられたい」と指示して居る程である。

二、以上の反駁により申請人等の主張第一点が理由のない事は明瞭である。

争点第二点 被申請人が業務命令を以て「職場復帰を促したこと」及「警告を無視した者を馘首した」事等は組合の干渉となるか否か

一、申立人等は被申請人は六月十七日先ず申請人鳥海源治郎外六名等を解職し二十日更に申請人佐々木敬助外四名の臨時夫を解職する等によつて本件争議を挑発し乍ら七月六日業務命令(証第十号の一)を以て(非合法争議の参加者には断乎たる処置に出ずることある」旨の警告をなし更に申請人等が本件争議に突入するや(証第十一号の二及び三を以て)「職場復帰の命令」を掲示し更に申請人等がスト参加者を馘首したのは組合の正常なる活動の妨害であると主張するがその理由のないことは既に「救済内容(1)に関する申請人等の論旨反駁の補足の項」に詳述した通りである。

(一)  猶申請人鳥海源治郎外六名を六月十七日解雇したのは日傭夫なるがためであり殊に申請人菅原庄三、伊藤勘之助、進藤健之助、鈴木長次郎、渡辺幸三、加藤久左衛門等は解雇手当を異議なく受領し殊に進藤健之助は失業保険金の給付すら受けつつあるものであり更に申請人佐々木敬助、藤原弁治郎、鈴木孝一郎、寺島伊八、渡辺金蔵の五名は既に昭和二十四年十一月の整備に際し退職を願出たので依願退職として特に一般基準の二倍乃至三倍の退職金を受領し退職した者で今囘の争議と何等の関係がない猶同人等は右の通り昨年十一月解雇手当退職金を受領したに拘らず組合を通じ復職を願出たので前記受領金返還を条件に復職を許した処之を履行しないので去る六月二十日退職せしめたものである。

(1)  然るに申請人等全員は之を目して「組合に諮らざる解職故協約第六条違反の解雇」であり争議の挑発であると批難するのである。

然し現在その様な協約が存在せず失効した協約第六条の規定も「組合に諮問を要する処か会社が一方的に解雇し得る会社の人事権承認の規定」であることは既述の通りである。

(2)  従つて此の点の立論は存在しない協約を前提とする空論であつて殊に被申請人の右十一名に対してなした辞職は「組合活動」を理由とするものでないから労組法第七条違反となるものではない。

(二)  更に申請人が七月六日以後申請人等に対し発した「業務命令」は前述の通り民主々義に反する専政的急進政党の術策に陥り政治スト的非合法争議により全日通組合の健全な発達が害され却て従業員等が不幸に陥ることを防止し時局下公益事業の本旨に叶う運営並労調法第一条の理想である産業の興隆を希求するの余り発令したものであつて組合活動を妨害する処か組合の正常なる発展と組合員たる申請人等の合法的活動を促さんとしたもの故全く適法な所為であり又業務を平和裡に運行する為め従業員に合法行動を命ずる事は会社の有する経営権の発動として妥当な行為であることは論がない。

二、従つて此の第二点の論旨も理由がない。

争点第三点 被申請人は警察と共謀して組合を断圧したか否か

一、此の点に関する申請人等の論旨は常識を逸するもので論駁するのも大人気ないが一応軽く触れて置く。

(一)  告訴があつても直ちに検挙するか否かは警察独自の判断によるものであり殊に逮捕命令は裁判官が警察官の請求の合法性、妥当性を判断した上になされたものであるから共謀して断圧したという事はあり得ない。

(二)  之を共謀と放言する徒は現行秩序を以て資本家独裁なりと盲信し且議会並法律を否定する特定政党の党員でなかろうかと疑われる(乙第十四号証)

二、従つて此の第三論旨も理由がない。

第三結論

一、叙上の次第であつて被申請人には何等不当労働行為はない。

二、却て申請人等は被申請人が申請人等を特に懲戒処分に付することなく「退職金に含み」を見せ或は労働基準法第二十条第一項但書後段の「労働者の責に帰すべき事由に基く解雇」の規定に拘らず特に三十日分の予告手当を与える挙に出て居る際(犬虚に吠へ萬犬実を伝へる如く)「懲戒処分による」と判断して本件申立をなして居ることは申請人等自身「本件同盟罷業を以て非合法と承認し之に対する参加は懲戒に価する」事を自白したものと断ずる外ない。

三、されば本件申請は全く理由なく却下せらるべきものと信じて疑はないと述べた。(疎明省略)

四、理  由

労働組合員が新憲法の下に於いて労働組合法、労働基準法、労働関係調整法等所謂労働法令によつて争議行為をなし得ることは論を俟たないところであるがこれをなすにはこれらの法令に従つた合法的な行動に出でなければならないこともまた当然である。而して被申請人会社の如き公衆の日常生活に欠くことのできない運輸事業を営むものにありては該事業が労働関係調整法第八条第一項の規定により公益事業であり、公益事業に関しては関係当事者が争議行為をなすには同法第十八条第一項第一号乃至第三号の規定によつて調停の申請をなし、その申請をなした日から三十日を経過した後でなければならないことは同法第三十七条第一項の規定によつて明らかであり、同盟罷業は組合員又は組合員の直接無記名投票により選挙された代議員の直接無記名投票の過半数による決定を経なければ開始することができないことは労働組合法第五条の八号によつて明らかであるから労働組合員で正当な争議行為をなすには右の各法条に適合した範囲に於てこれを為さねばならないのであつて然らざる場合は非合法の争議行為として認容されない次第である。

本件についてこれを見るに申請人等は被申請人会社と訴外日通労働組合間には昭和二十五年四月十七日組合が要求した「四月以降賃金を一人平均一二二五〇円にせよ」労働協約の改正、結婚資金の支給等の項目をめぐつて団体交渉が行われたが双方の意見一致を見ず同年五月十三日組合側が中央労働委員会に提訴し同委員会は同月二十三日正式に書類を受理し現在もなお審議続行中であるが組合は同年六月十三日に争議権を獲得したものの如く主張すれけれども成立に争ない疏乙第四号証に依れば日通労働組合新潟地区は昭和二十五年七月六日組合本部とは無関係に地区独自の立場に於いて日本通運株式会社新潟支店長宛に(一)就業時間中の賃金差引通告即時撤囘(二)四月賃金一万二千円即時支給(三)雪害寒冷地手当組合要求の即時支給(四)臨時作業員全部の即時入籍の四項目の要求を提出し且つ七月十日迄の書面に依る囘答を求めたことが明らかである。然るに右要求中(二)四月賃金一万二千円即時支給、及び(四)臨時作業員の即時入籍の二項目は前記昭和二十五年五月十三日同組合から中央労働委員会に調停を申立てた調停事項に掲げられなかつた全く新たな要求事項であるからこの(二)及び(四)の二項目について労働関係調整法第十八条第一項第二号に基き改めて日通労働組合新潟地区として調停の申立をなし同法第三十七条第一項の規定に従い調停を申立てた日から三十日の期間を経過した後でなければ争議行為をなすことができない訳である。要求事項の(一)及び(三)は日通労組中央本部が中央労働委員会に調停を申立てた事項であつてこれについて、同盟罷業をなすについては同本部からその旨の指令のあつた証左のないことは成立に争ない疏乙第五号証によつて明らかでありまた中央本部から該指令の移譲のあつたと認め得べき疏明もない本件にあつては敍上新たな(二)及び(四)の要求事項の申立のあつた昭和二十五年七月六日から三十日の所謂冷却期間の経過を待つことなく而かも申請人等の属する日通労働組合新潟地区が自ら日本通運株式会社新潟支店長に対して右要求事項に関する書面による囘答を求めた昭和二十五年七月十日の日限の到来を待つことなくして同月八日に同盟罷業を敢行した申請人等の争議行為はたしかに違法のものと謂わざるを得ない。申請人等は前示(二)及び(四)の要求事項は曩に中央労働委員会に對して為した調停申立の要求事項の一環をなすものであつてこれと別個のものではなく同一性のものであると主張するけれどもその当らないことは各要求事項の比較対照上自ら明らかであるから該主張はこれを採用しない。

しかのみならず同盟罷業を敢行するには組合員又は組合員の直接無記名投票により選挙された代議員の直接無記名投票の過半数による決定を経なければならないことは前掲説示の如くなるに拘らず申請人等は労働組合法の要求し居るこの重要なる手続を履践したものとは認めがたい。尤も申請人等は争議開始につき地区より支部、支部より分会、分会より班に優位性が認められ明らかにストに入る班に於いてその可否について無記名投票をなせば足りる旨確認されたし労働組合法の規定も組合の何処でこれを行わねばならぬと規定してゐないのであるから実際にストに入る組織に於いてその開始の可否を票決し可とするところから開始すれば法の要件を満たし毫も不法はないとし本件についても班毎に無記名投票できめて居り且つ一部の班では穏健に可決しても決行しなかつたところもある位だから社会的に見ても違法はないと主張するけれどもさように班毎に無記名投票によつて可否を決した成果を見るも秋田分会所属組合員八百余名中合計二百七十九名の賛成者を出したに過ぎないのにこれを以て分会としては絶対多数の意思決定を得たものとして過半数に達した班から争議行為に入ることを決めこれを秋田分会は秋田支部を介して新潟地区に報告しこれによつて新潟地区が前記同盟罷業の指令を発するに至つたものであることは成立に争のない疏乙第十九号証同第二十四号証疏甲第二十二乃至第二十四号証及び同第二十四号証中の内山雅夫の供述により真正に成立したものと認められる疏甲第十四号証同第十八号証によつて認められる。このような秋田分会の意思決定の仕方は前示労働組合法の趣旨と人の集団の意思活動に関する根本原則に照して考えるときは違法のものであると認めざるを得ない。換言すれば秋田分会としての意思決定するには秋田分会所属の組合員全員の直接に表明した自由な意思をまとめるため所謂直接無記名投票によらなければならなかつた訳であり敍上秋田分会のとつた意思決定は違法である、全日通労働組合新潟地区以下の行つた本件労働争議行為は違法のものであつたと認めるべきであるからこれに申請人等の参加したこと当事者間に争のない本件にありては申請人等の争議行為はいづれも違法のものであると謂はねばならない。他面に於いて被申請人会社が昭和二十五年七月八日申請人等の内内山雅夫以下五名を翌九日三浦鶴吉以下八十九名をそれぞれ就業規則第四十四条第五号に該当することを理由として解職処分に付したことは当事者間に争なくまた成立に争ない疏乙第十九号、同号証中の齊藤辰馬の供述記載により真正に成立したものと認められる疏乙第十一号証の一乃至三に依れば被申請人会社は申請人等の本件争議行為に入るに先だち七月六日、七日の両度に亘つて申請人等に対して違法な争議行為に入ることを戒め、もしこれに違反するときは会社として断乎たる処置をとるべきことを警告し更に本件争議行為の発生後も七月八日その行為の違法なものであることを告示して速かに職場復帰をすすめる旨の勧告を行つたことが認められ成立に争のない疏乙第十二号証によれば被申請人会社と全日通労働組合との間に協定された就業規則第四十四条第五号には被申請人会社は重大な事由のあるときはその従業員を解職することのできる旨が規定されて居ることが明らかであるから敍上の如く申請人等が被申請人会社の再三の警告にも拘らず敢て本件の如き違法な行動に出でたことは右の就業規則第四十四条第五号に所謂重大な事由のあるときに該当するものと認めるのが相当である。従つてこれを理由として被申請人会社が申請人等を解職に付した処分は正当なものであると認めるべきである。

然るに申請人等はこれに反しその為した同盟罷業を目して正当な争議行為であるとし被申請人会社の申請人等に対する右解職処分を違法のものであるとして申請人等の従前からの地位の保全等の仮処分を求めるものであるから申請人等の本件仮処分の申請は爾余の判断をまつまでもなく敍上の説示によりて自ら明らかであるから失当としてこれを却下すべきである。

よつて訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条の規定を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 籬倉正治 安田忠治 秦不二雄)

別紙目録<省略>

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